誰のものにもならない、私だけの大切なものが欲しいな と考えながら商店街から一本逸れた道を歩いてた。私が好きな人も洋服も本も漫画も食べ物も音楽も映画も花も美術も全部全部、私だけのものじゃないんだ。

 
ねえ、私が好きなブランドのお洋服を私より可愛く着こなすのやめて。
私が好きな本「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」の一文をTwitterのbio欄に書かないで。
私が好きな漫画家さんの、私がまだ買ってない新作を本棚に並べないで。
私が好きなあのカフェの美味しいケーキの写真をInstagramに載せないで。
私が好きな音楽を ドビュッシーアラベスク第1番を私より上手に弾かないで。
私の好きな映画「リリィ・シュシュのすべて」のレビューを私より綺麗な言葉で書かないで。
私の好きな花、街に漂う金木犀の香りに私よりはやく気がつかないで。
私の好きな美術家 サルバドール・ダリの美術館には行かないで。君がダリを知るずっと昔、まだ幼稚園に上がる前にパリの近代美術館で「記憶の固執」を観たのよ。
 
私以外の人と美味しいもの食べないで、映画館で映画を観ないで、バンドのライブにもオーケストラのコンサートにも行かないで、印象派の展示なんて観に行かないで、私の写真以外は削除してね、私以外の人をLINEのお気に入りユーザーにしないで。
私だけの大切なものになってほしい、私のことを置いて何処かに行かないでよ、ずっと手を繋いでおいてね、退屈なものなんて見てほしくない、明日も私とお話しようね、大人になんてならなくていいよ、森羅万象キラキラした宝石みたいでしょう、次はどこに行こうか、夕陽が綺麗に見えるあの街でいつか一緒に死のうよ、誰のものでもない私だけのものだから、私だけのもの、私だけのものって決めたから、宝箱の一番奥に、日記帳とSWAROVSKIのピンククリスタルよりも奥に閉まっておくから安心してね。どんどん増えていく大事なものに埋もれて見えなくなってしまっても、きっとすぐに探し出せるから。